Chapter2

2024年08月20日

2-51 ホッとする自分1

運動施設に通所していた時もそうだが、小規模多機能型居宅介護施設のお世話になっている時も、そのお迎えが来る前というのが、私にとって一番憂鬱な時間だった。

基本的に母は家に居たいので、お迎えが来る前になると必ず「トイレ」と言い出す。
お迎えの時間はだいたい決まっているものの、交通事情や他のお迎えの人に何かあると若干遅れることがある。そうなるとさらに「行きたくない…」と駄々をこねだす。

本人がトイレに行きたがるので連れていこうとすると「ピンポーン!」とチャイムが鳴る。「お迎え来たよ!」と言うと母はもの凄くイヤな顔をし「トイレに行きたかったのに~!」となる。冬場だと脱いだコートをまた着せて…といった手間もある。イヤイヤ星人と化した母を何とか玄関まで連れていき靴を履かせ「はい!お待たせしました!!」と、スタッフに引き渡す。

スタッフも心得ているので「サカエさん、おはようございます!お待たせしてごめんなさいね!」と言って、ナイトのごとく母に腕を差し出す。幸いなことに?お迎えのスタッフは毎回男性のことが多く、イケメンもいるため、その途端母の機嫌は急激に回復する。さっきまでのイヤイヤ星人などどこにも存在しなかったかのようだ。

私は笑顔で母に手を振り見送る。
その後、玄関の扉を閉めた瞬間、何にも束縛されない自由な時間が訪れる。
この時の安堵感といったら…まさに温泉に浸かって「はぁ~~!!」と、至福のため息が漏れるそれのようだった。

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2024年08月19日

2-50 これも人生の回収?

これまで飲めなかったお酒を自ら所望した母の行動には驚かされたが、母の弱点というか、コンプレックスも一生変わらないのだな…と思うことがあった。

施設から戻って夕飯も終わりテレビを観ている時に、急に母が自分の鼻をつまんだ。
しかも、ず~~っとつまんでいる。

以前の記事にも書いたが、母も私も鼻が低い。私はそのことで幼少期にいじめられたことがあった。それを母に話すと「鼻がひきい(低い)でん、息が出来るき良かろうが!(九州弁)」と一喝され「はい、終了~!」となったことがある。

ずっと鼻をつまんだまま離さない母に「どうしたの?誰かに鼻が低いって言われた?」と聞くと、母は「施設で言われた」と言う。で、先のことを母に話すと、私をジロッと見ながらも鼻から手を離そうとしないので「洗濯ばさみでつまんでおく?」と冗談で言うと「うん!」と言う。マジか?と思いながらも洗濯ばさみを持ってくると、本当にそれで自分の鼻をつまもうとするではないか!
とはいえ、力がないので結局つまめないのだが…。

その後もずっと自分の鼻をつまんでいた母だったが、そのうちそのことも忘れたようで、気付けば鼻をつまんでいた手はテーブルに置かれていた。

母にとってコンプレックスを克服?することも、人生の回収?の一つなのかもしれない…と思わされた出来事だった。

今世は鼻が低かった。来世はクレオパトラのような鼻筋の通った美女?に生まれ変われるかもしれない…と、妄想しておこう。

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※スフィンクスだって鼻が無くなっても堂々としている!見習おう!!


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2024年08月18日

2-49 人生の回収?

週に2晩、我が家で過ごす母にとっての楽しみは夕食なので、母が好きそうで食べ易いものを作るように心がけていた。
小食ではあるものの、おいしくないと食べないので、その辺は気合を入れて作るのと、見た目にも食べたくなるよう、彩りにも気を配っていた。

昔から母は胡麻を使った料理を良く作っていたので、ほうれん草の胡麻ピーナッツバター和えを作ったが、見た目がイヤだと言って食べなくなった。食べたら美味しいのに…と、私が食べてみせるものの、皿ごと奥へ押しやる始末。まあ、仕方ないな…と思いつつ、好きなものを食べるよう促す。

すると「うちにもくれんかい?(九州弁)」と言う。えっ?と思うと、どうやら私が飲んでいるワインが気になったようだ。
母はというか、父もそうだが、両親揃って下戸であり、お正月のお祝いのお屠蘇一杯で二人共寝てしまうほど酒には弱いので、自ら飲みたい!などと言ったことはこれまで一度も無かった。

ワイングラスに少量注ぎ母に渡すと、グビグビ飲み干し「おいしいね~!」と言う。
え?マジか?!と思ったものの、おかわりを所望されるので、言われるがままもう一杯注いだ。
ここでもまた「おいしい~~!」と言いながら飲み干した。

母の人生においての美酒はおそらくこの時が初めてではないだろうか?
しかも、おかわりまでするなんて…。

認知症になり食の好みが変わったのか?人生においてお酒を飲まなかったことへの後悔からか?はたまた人生の回収の始まりなのか?は定かではないが、この時の母のおいしそうな顔は忘れることが出来ない。

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2024年08月17日

2-48 身体の異変1

2021年7月から母は小規模多機能型居宅介護施設で週5日宿泊し、2晩は我が家で過ごすようになって気付いたことの一つに、足のむくみがひどくなったことがある。

この施設でも軽い運動はやっているようだが、基本的にはテーブルで折り紙を折ったり、絵を描いたり、ゲームで遊んだりといったことが多く、運動施設に通っていた時のような負荷のあるそれはなかった。それが原因かどうかは分からないが、帰宅した時にいつも母の足が象さんのようにパンパンにむくんでいるのが気になった。

90歳も過ぎれば身体機能はどんどん衰えていくわけで、これはある意味順調なお育ち?の証拠でもあるため、それ自体は受け止めていくしかないのだが、足がむくむということは、体全体の循環機能が落ちていることを意味する。

在宅介護の時はほぼ毎日マッサージを施していたので、帰宅した時にも同様にそれを試みた。
爪先からふくらはぎ、腿にかけ、下から上へさすってあげると、数十分のうちにむくみは治まるので、やはり循環が悪くなっているようだ。

施設では一人一人にそのような細かいケアは出来ないだろうが、時間が空いたら足のマッサージをしてもらえるようお願いしたところ、スタッフの方が合間を見ては心掛けてくださっていた。ありがたいことだ!

普通足がむくめば気持ち悪いはずだが、皮膚感覚も鈍くなっている母は、それほど気持ち悪がることもなく、むくんだ足を見て「ああ、むくんでるね~」と、何とも呑気な反応が返ってくるばかりなので、身体機能が落ちても、本人はそれを自然と受け入れているのだと感じた。

それでも、通常とは違う変化を目にすると、子供としては心配にもなるし、元に戻してあげたいとも思う。
だが、それも行き過ぎた対応を取ってしまうと、せっかく最期に向かって身体が店じまいをしようとしていることを阻害することにもなりかねないので、その見極めは大切だ。

母は常々「延命はしない!」と言い続けていたので、その願い通りになるよう、生物として自然と朽ちていけるよう見守っていくようにしていた。
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2024年08月16日

2-47 特養申込(後編)

特別養護老人ホームは、基本的に持病のない健康体であることが入所の条件ではあるものの、高齢で持病のない者は殆どいないのが現実だろう。施設により、胃ろうやインスリン注射、腎ろう、ストマー、たん吸引…といった疾患や障害に応じて対応の可否が分かれる。
幸い母は認知症以外の持病はなく、年相応に衰えているだけなので、その点ではどの施設を選択することも可能だ。

申込にあたり「入所調整基準」というものがあり「介護度」「年齢」「介護認定期間」「介護状況等」の4つの項目により採点される。この時点で我が家の得点は、100点満点中55点だったので、この点数だけを見ると切羽詰まった感はないと判断されるかもしれない。

申込書についての必要事項として、身体状況、認知症等の状態を細かい項目ごとに該当するか、他に現在の主な疾患、処方薬、過去の既往疾患も記入するようになっている。また、特別な医療行為についての記入欄もあった。

家族が記入する以外にもケアマネさんの記入欄もあるため、普段から担当するケアマネさんとの連携は必須だ。

8月末に応募締切となり、9月に(2月応募分は3月に)入所調整会議が開かれ、優先順位を審査して希望施設ごとに名簿が作成される。保険者(区)、社会福祉法人(特養ホーム施設長など)、医師、民生委員が選定委員として審査する仕組みになっている(上記は区の特養申込書より抜粋)。

入所調整会議後に優先順位の通知が来たが、そこには区内で300人以上が待機していることが書かれていた。とはいえ、一人が3つの施設を申し込んでいるので、実際には100人ほどの待機ではないか?と、この頃お世話になっていた民間施設の施設長さんは仰っていた。

この審査の有効期間は6か月間なので、それを過ぎた場合は、改めて特養申込をする必要が生じるが、いつ順番が回ってくるか分からないので、吉報?が来るのを待つしかない。

この半年後に母は要介護5の判定が下り、時同じくして特養の空きが出ることになるが、それはまた先で書きたいと思う。

240816


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